日本で「DV」と聞くと、まず思い浮かぶのは、殴る、蹴る、突き飛ばすといった身体的な暴力かもしれません。
もちろん、身体的暴力は深刻なDVです。
しかし、オーストラリアでは、DVはそれだけで理解されているわけではありません。
オーストラリアでは、州や準州によって法律上の用語や細かな制度は異なります。
family violence、domestic violence、domestic and family violence など、使われる言葉にも違いがあります。
ただし、共通して重要なのは、DVが「殴る・蹴る」といった身体的暴力だけを指すものではない、という点です。
オーストラリアでは、身体的・性的暴力だけでなく、脅迫、監視、支配、経済的虐待、精神的・心理的虐待なども、状況によっては domestic and family violence の一部として捉えられます。
たとえば、次のような行為です。
交友関係を制限する。
スマートフォンやSNSを勝手に確認する。
「どこにいるのか」と何度も連絡する。
生活費を渡さない、自由にお金を使わせない。
別れた後も、相手が嫌がっているのに連絡を続ける。
「言うことを聞かなければ困らせる」とほのめかす。
日本では、こうした行為が「心配しているだけ」「夫婦げんかの延長」「別れ話のもつれ」と受け止められることもあります。
また、相談する側も「殴られているわけではないので、DVとは言えないのでは」と考えてしまうことがあります。
しかし、オーストラリアでは、身体にけががあるかどうかだけで判断されるわけではありません。
相手を怖がらせていないか。
相手の行動や人間関係を支配していないか。
相手が自由に判断し、安心して生活できる状態を奪っていないか。
そうした点も重視されます。
ここに、日本との大きな認識の違いがあります。
日本では、DVを「暴力があったかどうか」で考えがちです。
一方、オーストラリアでは、「相手を支配していないか」「恐怖を与えていないか」「自由を奪っていないか」という視点が重要になります。
そのため、日本の感覚では「大ごとではない」と思われる行為でも、現地では深刻な問題として扱われることがあります。
逆に、被害を受けている側が「これくらいで相談していいのだろうか」と迷っているうちに、危険が大きくなることもあります。
DVは、殴る蹴るだけではありません。
相手を怖がらせ、監視し、支配し、自由を奪う行為も、深刻な問題になり得ます。
海外で生活するうえでは、日本での常識だけで判断せず、現地の制度や考え方を知ることが大切です。
DVを正しく理解することは、誰かを責めるためではなく、自分自身や身近な人を守るための第一歩です。
次回は、「元恋人も対象になるのか?」という視点から、オーストラリアにおける domestic and family violence の範囲について見ていきます。
