「あなたの家族を誘拐した。無事に帰してほしければ金を払え」
海外にいる家族について突然このような連絡を受ければ、冷静に対応することは簡単ではありません。
しかし、実際には誰も誘拐されていないにもかかわらず、本人や家族に「誘拐された」と思わせて金銭を要求する、**Virtual Kidnapping(バーチャル・キッドナッピング、いわゆる仮想誘拐)**と呼ばれる詐欺があります。
オーストラリアでは外国人留学生を狙った事案が繰り返し確認されていますが、留学生だけに関係する犯罪ではありません。
海外にいる本人と家族が離れていて、すぐに安否を確認できない状況は、駐在員や海外出張者、旅行者とその家族についても起こります。海外では、こうした状況を利用したVirtual Kidnappingについて注意喚起が行われています。
日本の「ニセ警察詐欺」に似た入り口も
日本で問題となっている「ニセ警察詐欺」では、警察官などを装い、
「あなたが犯罪に関与している」
「逮捕される」
「捜査に協力する必要がある」
などと不安をあおる手口が確認されています。
オーストラリアで発生しているVirtual Kidnappingにも、これと似た形で始まるものがあります。
特に外国人留学生を狙ったケースでは、犯人が警察や政府機関の職員などを装って本人を脅し、家族や周囲との連絡を絶たせます。
さらに、ホテルなどへ移動させ、自分が誘拐されているように見える写真や映像を本人に撮影させるケースも確認されています。
その写真などを今度は海外にいる家族へ送り、「子どもを誘拐した」として身代金を要求します。
つまり、家族に届いた写真が本人のものであっても、そこに写っている状況まで本当とは限らないということです。
最初から「詐欺」と判断できるとは限らない
私自身、ビクトリア州警察に在職していた当時、外国人留学生を狙ったVirtual Kidnappingの捜査・対応に何度も携わりました。
こうした事案で難しいのは、最初に通報を受けた段階では、本当に誘拐事件が起きているのか、それともVirtual Kidnappingなのか、すぐには判断できないことです。
家族には「本人を拘束している」という連絡が入り、本人とも連絡が取れない。場合によっては、拘束されているように見える写真や映像まで存在します。
そのため、最初から「詐欺だろう」と決めつけることはできません。
本人の所在と安全を確認すると同時に、実際の誘拐である可能性も念頭に置きながら、迅速に事実関係を確認していく必要がありました。
「今すぐ払え」と言われたら
このような連絡を受けた場合に重要なのは、相手の要求に従って慌てて送金するのではなく、別の経路から本人の安全を確認することです。
- その場で送金しない
- 相手にこちらから新たな個人情報を与えない
- 本人が普段使っている電話番号やメッセージアプリから直接連絡する
- 連絡が取れなければ、友人、学校、勤務先など別の経路から所在を確認する
- 実際に危険がある可能性を否定できない場合は、現地警察へ連絡する
現在は、SNSから本人や家族に関する情報を集めたり、AIを利用して音声や画像を作ったりすることも可能になっています。
そのため、「本人の声だった」「本人の写真が送られてきた」というだけで、本物だと判断することも難しくなっています。
「詐欺かもしれない」と「安全確認」は別に考える
Virtual Kidnappingという手口を知っていれば、「これは詐欺かもしれない」と気付くことはできます。
しかし、本人と連絡が取れない状況で、「きっと詐欺だから」と安全確認までしなくてよいわけではありません。
相手の要求に従って送金しないことと、本人の安全を迅速に確認することは、分けて考える必要があります。
海外に家族がいる場合には、本人と連絡が取れないときに「誰に確認するのか」を、普段から家族の中で決めておくことも一つの備えになります。
※本稿は一般的な犯罪・安全情報を紹介するもので、個別事案についての助言を目的とするものではありません。
