日本でも近年、「デートDV」という言葉が報道などで使われるようになってきました。
日本で一般にDV、つまり家庭内暴力と呼ばれる問題は、夫婦や同居している家族の間で起きるものというイメージを持たれがちです。
しかし、交際相手や元交際相手との間でも、暴力、脅迫、監視、支配的な行動が起こることがあります。
この認識が少しずつ広がってきたことは、とても重要な変化だと思います。
一方、オーストラリアでは以前から、DVを「家庭の中」や「結婚している夫婦」だけの問題とは考えてきませんでした。
オーストラリアでは、州や準州によって法律上の用語や制度の細かな違いがあります。
family violence、domestic violence、domestic and family violence など、使われる言葉にも違いがあります。
ただし、共通して重要なのは、DVを「結婚している夫婦」や「同居している家族」だけの問題として捉えていないという点です。
恋人、元恋人、同居していない相手との間で起きる暴力や支配的な行動は、オーストラリアでは一般に、DVや family violence / domestic and family violence の一部として扱われます。
ここで関係してくるのが、Intervention Order という保護命令です。
Intervention Order とは、暴力、脅迫、嫌がらせ、監視、継続的な接触などから相手を守るために、裁判所が出す命令です。
日本語では「接近禁止命令」と説明されることもありますが、実際には単に近づくことだけでなく、電話、メッセージ、SNS、第三者を通じた接触など、さまざまな行為が制限される場合があります。
ビクトリア州では、少なくとも2000年代半ばには、親密な交際関係も Intervention Order の対象として扱われていました。
そして、2008年の Family Violence Protection Act という法律によって、その考え方がより明確に整理されました。
つまり、オーストラリアでは2000年代から、DVを「結婚している夫婦」や「同居している家族」だけの問題としてではなく、恋人や元恋人を含む親密な関係の中で起きる暴力や支配として捉える認識がありました。
この点は、日本で「デートDV」という言葉がようやく広く報道されるようになってきた現在、とても大きな違いだと思います。
つまり、DVは「結婚しているかどうか」だけで判断されるものではありません。
オーストラリアでは一般に、恋人や元恋人であっても、親密な関係の中で暴力、脅迫、監視、支配、性的な行為の強要などがあれば、夫婦や家族間のDVと同じ枠組みで Intervention Order の対象になります。
たとえば、交際中の相手や別れた相手との関係で、次のような行為が問題になることがあります。
殴る、蹴る、突き飛ばすなどの身体的暴力。
暴言、脅し、人格を否定する言葉などの精神的・心理的暴力。
生活費やお金を支配する、自由に使わせないなどの経済的虐待。
性的な行為を強要すること。
嫌がっているのに、性的な写真や動画を求めること。
スマートフォンやSNSを監視すること。
交友関係や行動を制限しようとすること。
こうした行為は、結婚している夫婦の間だけでなく、恋人や元恋人との間でも深刻な問題になります。
日本では、こうした問題が「恋愛トラブル」「別れ話のもつれ」「しつこい連絡」と見られることもあるかもしれません。
しかし、オーストラリアでは、相手に恐怖を与えたり、自由な生活を妨げたり、支配的な関係を続けようとする行為として、深刻に扱われます。
重要なのは、関係の名前ではありません。
夫婦か。
恋人か。
元恋人か。
同居しているか。
別れているか。
そうした形式だけではなく、その関係の中で、相手が恐怖を感じているか、行動を支配されているか、安全な生活が脅かされているかが重要になります。
私がビクトリア州警察で勤務していた際にも、交際相手や元交際相手をめぐる相談や事件は珍しいものではありませんでした。
身体的暴力だけでなく、脅迫、精神的な支配、性的な行為の強要、スマートフォンやSNSを使った監視など、被害者に強い恐怖や不安を与えるケースは多くありました。
海外で生活する日本人にとって大切なのは、「結婚していないからDVではない」「別れた相手だから関係ない」と決めつけないことです。
DVは、結婚している夫婦だけの問題ではありません。
恋人であっても、元恋人であっても、相手を怖がらせ、監視し、支配し、自由を奪う行為は、深刻な問題になります。
Intervention Order が出された後に、具体的にどのような行為が禁止されるのかについては、次回の【DV】シリーズ
「接近禁止命令で何が禁止されるのか」で取り上げます。
